馬でつながる

ヒト・モノ・コト

斉藤烈さん

EDUCATION

厚真町教育委員会生涯学習課社会教育グループ

斉藤 烈さん

「馬」は、子どもの可能性を伸ばすための
選択肢のひとつ。
強制ではなく、子どもたちが
自分で考え行動する主体性を大切に。

厚真町の放課後児童クラブに西埜馬搬の馬が定期的に訪れています。
学童保育の現場に馬を取り入れた理由や想いについて、学校と地域をつなぐコーディネーターの役割を担っている、厚真町教育委員会の斉藤さんにお話を伺いました。

首にかけたけん玉がトレードマークの斉藤さん。地元では「けん玉けんちゃん」の愛称で親しまれ、幅広い世代のコミュニティ形成に一役買っている「厚真けん玉クラブ」の代表も務めています。

子どもたちの子どもたちによる

子どもたちによる

子どもたちのための遊び場作り

2019年にスタートした「厚真冒険の杜プロジェクト」の活動で、西埜さんと馬たちに協力をしてもらっています。

このプロジェクトは、厚真町に新しくできた放課後子どもセンターの建物裏にある森を整備し、放課後児童クラブの子どもたちが遊び場を作るというものです。

何をしたいか子どもたちが考え、そのためにどんな道具が必要か、どうやって作るかまですべて自分たちで考えて行動するんです。

子どもの自主性を尊重し、大人は必要に応じてサポートするのみ。
ただ、遊びのアイディアになるものや選択肢はどれだけあってもいいので、そこは大人が知恵を絞って用意します。

そこで、「馬」も選択肢のひとつとして取り入れてみてはどうだろうと、月に数回「馬が来る日」を設けました。

学童保育は、放課後に子どもたちが過ごす居場所で、毎日の暮らしの一部です。
放課後の遊びは特別なイベントではなく、継続できることが大切だと思うんです。

馬が来ることも非日常ではなく日常のことにしていきたいですね。馬のお世話をしたり一緒に過ごしたりすることで、動物との共生を学ぶこともできるんじゃないかと。

実は「厚真冒険の杜プロジェクト」がスタートする前に、子どもたちと西埜馬搬の馬たちが交流する機会がありました。

2018年9月、震災直後に学校再開までの約10日間開設した、その名も「ハッピースターランド」です。

子どもの主体性を尊重すれば

「何もしない」という選択肢もアリ

北海道胆振東部地震で厚真町も甚大な被害を受けました。

町の大人たちは被害の対応に追われていましたが、子どもたちは避難所にじっとしているほかなく暇を持て余していて、学校も休みだったので、当面の間子どもたちが日中過ごせる場所が必要でした。

すると周りの人たちが「けんちゃん、なんとかしてよ」と、私に白羽の矢を立てたのです。

それならばとSNSで状況を発信すると、テントやタープ、薪割り機、スラックライン、手づくりブランコなどの物資と、のべ300人ものボランティアが集まってくれました。

素早い対応が本当にありがたかった。
そして、西埜さんも馬を連れて来てくれました。

震災2日後には、避難所横の空き地があっという間に子どもたちの楽しい居場所になり、子どもたちによって「ハッピースターランド」通称「ハピスタ」と名付けられたのです。看板も子どもたちが手作りしました。

ハッピースターランドの様子

ハッピースターランドの様子

子どもたちは毎朝「パピスタ」にやって来て、その日何をするかを選びます。

例えば、薪割りだったり、川遊びだったり、けん玉だったり、馬がいるときは馬のお世話だったり。「何もしないこと」も全然アリです。

絶対に何かしなければならないと強制するのは、子どもの主体性を否定していることになるからです。何もしないという選択肢も、自分で考えて行動する主体性のひとつでいいじゃありませんか。

ハッピースターランドの様子

ハッピースターランドの様子

子どもたちの学びのために、私たちが用意しなくてはならないのは、より多くの選択肢だと思います。たくさんの選択肢を提供し、子どもの可能性を伸ばすこと。
自分で考えて選んで行動し、その結果得られた学びは一生ものです。

学校が再開するまで、「パピスタ」は子どもたちの居場所となり学びの場となりました。振り返ればこの日々の中に、のちの「厚真冒険の杜プロジェクト」の姿を垣間見たように思います。

ハッピースターランドの様子

馬を日常に。いつか放課後児童クラブで

いつか放課後児童クラブで

馬を飼うのもいいですね

放課後児童クラブでは、選択肢のひとつとして「馬のいる時間」がありますが、子どもたちの中には、ドンピシャで馬にハマった子もいます。その子は放課後児童クラブがきっかけで馬が大好きになり、もっと馬と関わりたいと乗馬クラブに通い始めました。馬が来るからクラブに来るという子もいます。

みんながみんな興味を持たなくても、1人だけでもいい。その子の心に響けばいいんです。

それと、馬との触れ合いはもちろん、馬とともに林業を営んでいる西埜さんの仕事、そして生き方を、子どもたちに知って欲しいという想いもありました。

厚真町にはこんな人がいるんだよと。
それもここでしか得られない学びですから。

放課後児童クラブに馬がいることが少しずつ定着してきたので、いずれ馬を飼ってみるのもいいかもしれません。

乗馬や馬ソリで遊ぶだけではなく、責任を持ってお世話をすることで馬がいることの非日常を日常にしていけたら。馬と暮らしていた頃の文化を学ぶきっかけにもなりますし、言葉を使わない馬と対話しコミュニケーションを図ることで人間性を高めることも期待できるんじゃないかと思っています。

馬は動物なので、アレルギーの問題や怪我のリスクも少なからずあります。

馬に限らず何事においてもリスク管理は重要ですが、大人のリスク管理が中心になって子どもたちの「やってみたい」を潰すようなことがあってはならない。私は子どもの可能性を引き出し伸ばすことができる大人でありたいと思っています。

これからも、子どもたちのやってみたい気持ちを掬って叶えられるよう、地域と学校をつなぐ活動をしながら、自分にとっても子どもたちにとってもより良い環境を作っていきたいです!

斉藤烈さんの写真

厚真町教育委員会生涯学習課社会教育グループ

斉藤 烈さん

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