コラム

馬との出会い裏話

今でこそ馬たちのエースとして存在感をしめすカップ君ですが、ここに来るまでには彼も色々とありました。このお話は、カップ君が西埜馬搬に初めてやってきたころの波乱万丈(?)の裏話です。

カップ君

提供ばんえい十勝

アアモンドライト号の
最初で最後のレース

2017年5月22日。
帯広市「ばんえい競馬場」の第3レースは2歳新馬戦、いわゆるデビュー戦だった。

ファンファーレが高らかに響きゲートが開くと、各馬一斉にスタートを切った。蹄の音と胴引きの鎖がぶつかる金属音が響き、砂埃が舞う。逞しい筋肉に血をめぐらせ力強く競り合うばん馬の姿は圧巻だ。

ばんえい競馬は、最大1トンにもなる鉄ソリを引いて、直線200メートルのコースを完走する順位を競う。コース途中には障害と呼ばれる2つの山があり、それを越える戦略も見所だ。

ばんえい競馬場の様子

提供ばんえい十勝

ばんえい競馬場の様子

提供ばんえい十勝

第1障害は高さ1メートルの山。
初々しい若駒たちは勢いよく坂を越えると、上がる息を整えるため〝刻み〟ながら進んでいく。勝負は目前に迫る高さ1.6メートルの第2障害だ。

先頭集団が第2障害に差しかかると、ひときわ大きな歓声が飛び交った。
ここがレースの正念場とばかり、騎手と馬が息を合わせ、力強く地面を蹴って手強い坂を登る様に、手に汗握る観客の声援も熱を帯びていく。

先頭の馬がクリアすると、それに続けと次々と馬たちが山を越えていく。
白熱するレースの中、第2障害の登坂に挑むも上りきれず、坂の途中で立ち往生する一頭がいた。

ばんえい競馬場の様子

提供ばんえい十勝

アアモンドライト号
額に星、鼻筋に鼻梁白の入った栗毛のばん馬だ。

進め進めと、騎手は力いっぱい手綱を引いて〝バイキ〟する。それに応えて一歩進もうとするが、どうしても前進できない。この山場を越えられない。

すでに半数以上の馬がゴールしていた。
ばんえい競馬には制限時間内にゴールできないとタイムアウトするルールがある。
結果、アアモンドライト号は時間切れで競走中止となってしまった。

これが、のちにカップと命名されるばん馬の、最初で最後のレースだった。

カップ君のアアモンドライト号時代

提供ばんえい十勝

西埜馬搬に、
待ちわびた馬がやって来た!

アアモンドライト号のデビュー戦の少し前、2017年4月中旬。
厚真町に西埜馬搬を開業した西埜将世は、ちょっとだけ焦っていた。
馬搬を生業に開業したというのに、まだいないのだ、馬が。

というのも、4月上旬のばんえい競馬の能力検査で、落ちたら買おうと狙っていた個体がすべて合格してしまい、アテが外れてしまったのだった。

クヨクヨ考えても仕方がない。
案内してくれた馬の目利きのプロ、函館馬商の小松さんからの連絡を待つしかない。

待つこと1ヶ月、小松さんから良さそうな馬がいると連絡が入った。
聞けば、デビュー戦で競争中止となり能力再検査を受け、落ちてしまったという。
そして、このままいけば熊本に送り肥育して食肉になってしまう運命とも。

同情の気持ちも少しありつつ、小松さんが良いというなら大丈夫だろうと、その馬に即決すると、早速翌日連れて来てくれた。

そのばん馬は、明るい茶色で金髪の、ヨーロッパ品種の面影を残すルックス。
そしてどこか落ち着きのない印象を受けた。上手くやっていけるだろうか。
やっていくしかない。

その日から我が家の一員となったばん馬を、厚真町の名産品ハスカップからカップと命名。兎にも角にも、晴れて西埜馬搬に馬が来たのだった。

餌を食べるカップ君

お相撲さんから
細マッチョの食生活へ

馬が来たからすぐに順風満帆かというと、世の中そんなに甘くはないもので
カップが餌を食べない。

厩舎の中でもソワソワして、明らかにこの場所に慣れなくて戸惑っている様子だった。
でも慣れないのはお互い様で、西埜家も馬と暮らすのなんて初めてだ。

職場の牧場で勤務時間だけ世話をすればいいのではなく、24時間体制で対応しなくてはならないのだ。何かあったらどうしようと、人間も不安で仕方ないのに、馬が餌を食べないときた。

牧草の種類を変えたり、機械で草を細かく切って食べさせたりと試行錯誤の末、カップが餌を食べ始めたのは10日くらい経ってからだった。カップが環境に慣れてきたことも大きいのだろう。

ばんえい競馬の馬たちはいわば力士で、朝から筋トレして美味しいものをたっぷり食べて体を大きくし筋肉を維持している。

西埜馬搬では主に牧草を食べさせるが、人間にすればヘルシーな粗食で、力士というより細マッチョ向けの食生活だ。ちょっと口に合わなかったのかもしれない。

餌を食べるようになったので、いよいよ馬搬のトレーニングをスタート。
試しに鉄ソリを引かせてみたら、さすがはばんえい競馬出身とあって、お手のものだった。平地になれたら山道を練習し、町有林の整備なども少しずつできるようになっていった。

山道でソリを引くカップ君

蹄が弱くとも、カップは
大切なファミリーだ

夏になり、馬搬の仕事が形になり始めたと思った矢先のこと。
カップが、足を痛がって歩けなくなった。立っているのも辛いようで、ついに厩舎に寝転んでしまい起き上がらない。寝たきりだ。

このまま死んでしまうのではないかと慌てて獣医さんを呼ぶと、蹄に傷ついてそこからバイ菌が入り化膿していて、膿が出たら治るという。

寝転んだまま起きがらないカップ君

実はカップは蹄を痛めやすいという個性があったのだが、そのときはまだ知らず、その数ヶ月後、蹄鉄師に「この馬は爪が傷みやすい」と言われて初めて知ったのだ。

蹄が傷みやすい馬には手間とお金がかかるので、「別の馬に変えた方がいいよ」とも言われたが、生活をともにしているカップはもうすでに家族同然だったので、車を乗り換えるように交換するなんてできるわけがなかった。

蹄を痛めないように細やかにケアしながら、個性と上手に付き合っていけばいい。

カップ君の蹄のケアをしている西埜さん

かくして、カップは西埜家の一員となり、今ではかけがけのないパートナーとして、日々成長を続けている。

その後、1頭また1頭と後輩が増え、いつしか兄貴キャラとしてファミリーを牽引するようになったのでした。

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