馬でつながる

ヒト・モノ・コト

近藤良介さん

VINEYARD

kondo vineyard

近藤 良介さん

馬と働くことで得られる充足感や達成感は
一度味わうとやめられない。
一過性で終わらせない、持続できる馬耕を
模索し実現していきたい。

縁あって2019年から岩見沢市栗沢のワイナリー「kondo vineyard」で馬耕を行っています。 「kondo vineyard」は2007年にワイン用ぶどう農家として独立。農薬や化学肥料に頼らず、植物にとって快適な環境でぶどうを育てワインを醸しています。畑と人が織りなす無二の味わいに国内外からの評価も高い、日本を代表するワイナリーのひとつです。

ぶどう畑に馬耕を取り入れた近藤さんに、馬耕の魅力についてお話を伺いました。

西埜さんとの出会いで長年温めてきた

長年温めてきた

馬耕への想いが形を成す

馬耕の様子

私が初めて馬耕を体験したのは2006年の春、フランスロワール地方のワイン生産者オリヴィエ・クザン氏のぶどう畑です。

農家である彼が馬を操り畑を耕す光景は深く印象に残り、そのとき芽生えた「自分もいつかやってみたい」という想いは、ぶどう農家として独立し日々の業務に追われながらも消えることなく、心の奥でひっそりと息をしていました。

フランスロワール地方の写真

ワイナリーの写真

馬耕と出会ってから12年経った2018年、知人から「厚真町に馬耕をしたいという人がいるけど、会ってみないか」と、馬耕を実現するチャンスが訪れました。

聞けば馬とともに馬搬という林業をされていて、オフシーズンとなる春から秋に馬耕をしたいという。会わない理由はない。

これは絶対に面白いという直感もあり、ぶどう農家仲間と真冬の馬搬現場へ西埜さんに会いに行きました。彼は想像の斜め上をゆく面白い人物で、すっかり意気投合した私と西埜さんは、翌2019年の6月、初の馬耕チャレンジに挑むことになったのです。

馬耕の様子

とはいえ、私も西埜さんも「やってみよう!」という熱意はありますが、経験値はほぼゼロ。ノウハウが全くない中、手探りでの試行錯誤がスタートしました。

まずは近所の農家の納屋に眠っていた農具を借りてやってみたのですが、何か違う。違うことだけはわかるが、正解がわからない。それでもやるしかない。

ワイナリーの写真

焦りや不安がありながらも、初めてカップ君とぶどう畑を歩いたとき、私の胸に嬉しさや感動といった感情がじわじわと湧いてきました。

フランスで見た光景とは全然違う、
お世辞にも耕しているとは言えない歩みでしたが、
それでも、「馬と働いている」

心が満たされるような、とても原初的な体験でした。なんというか、北海道を開拓した人たちのDNAを感じるような。

馬耕の様子

馬耕の様子

石の上にも3年

焦りや戸惑いに怯まず続けた馬耕の効果

馬耕の効果

ワイナリーの写真

色々と試していくうち、ぶどう畑専用の農具じゃないと上手くできないことがわかり、西埜さんが専用農具をフランスから取り寄せてくれました。 春、夏、秋それぞれの季節に行う作業に特化した3種類の農具です。

馬耕は春、夏、秋で作業が違い、最も重要なのは秋の作業。
ぶどうが水っぽくなると美味しいワインが造れないため、水分を吸収しすぎないよう、浅い位置の根を切ります。地表から15〜20cm程度の根を切ることで水分の摂りすぎを抑えるとともに、根がより深く伸びるよう活性化させる効果もあります。

土をぶどうの木に寄せて冬の寒さから保護することや、雪解け水の排水のため溝をつけておくことも大切です。

馬耕の様子

春は木に寄せた土をならし、土を起こすことで草を抑制する。
夏は草を刈って土にすき込む。

季節ごとの作業はわかるのですが、専用農具の正しい使い方がわからず、藁にもすがる思いでYouTubeの動画を観たり、タイミングよく実施された大手ワインメーカー主催の馬耕勉強会に参加するなど、手を尽くして情報を収集しました。

初の馬耕チャレンジから5カ月後、専用農具を使い見よう見まねで行なった秋の馬耕は、浅い根はどうにか切れており、耕された感じもある。まずは及第点ということで、あとはやり続けてみるしかないと、これから数年かけて馬耕と付き合う覚悟を決めました。

馬耕の様子

馬耕の様子

腹を括ったものの、最初の年は効果が感じられずに戸惑いました。耕すことの作業体系がガラリと変わるわけですから、これでいいのか、続けるうちに本当に変わるのかと。

ところが、そんな心配をよそに、3年経った頃から土が柔らかくなってきて、「馬耕の畑」に変わっていきました。明らかに前より良い状態になったのです。プロの生産者はもちろん、一般の方が見てもわかるくらいに。

馬と働きワインを造る

この土地でそれが実現できれば面白い

面白い

kondo vineyardの赤ワインの写真

馬耕を続けた結果、畑が元気になって収穫量も増えました。

馬の蹄は土壌を固めないのでぶどうの根張りが良くなる、狭い畝間でも馬なら入って耕すことができ、木のギリギリまで近づいて繊細な作業ができる、そういった馬耕の特長が畑に反映されたのだと感じます。

ぶどうの写真

馬耕の様子

そして私が何よりも強く感じる馬耕のメリットは、「馬と働く充足感」です。
極論を言ってしまえば、トラクターの作業を工夫すればある程度は馬耕の効果を再現できるかもしれません。ですが、馬と一緒に畑で過ごす時間はトラクターの作業では得られない魅力がある。

馬がいると人が集まって賑やかになります。
馬を囲んで人々が協力し合い目標を達成するという、古くから営んできた馬との関わりは、喜びや達成感を与えてくれるのです。

ワイナリーの様子

ワイナリーの様子

これからの課題は、いかにコストを改善して馬耕を持続していくか。
今は、馬1頭と人間2人で作業をしていますが、将来的には1頭と1人で作業ができるようにしたいと考えています。フランスでは1人で馬を操っていましたから、作業の熟練度を上げれば可能なはずです。

効率を改善することで、生産者が馬耕を続けやすくなる。続けられることがとても大事です。

岩見沢はぶどう農家が多い地域ですから、馬耕を選択する生産者が増えれば、みんなで馬を飼って生産者同士でシェアするなんてことが実現するかもしれません。

馬と働きぶどうを育てワインを造る、オリヴィエ・クザン氏をはじめ一部のワイン生産者にとっては当たり前の生活サイクルが、この土地にも定着していけば面白いですね。

常に新しい道を切り拓いていく西埜さんは、どこか自分と通じる部分があると思っています。これからも馬耕の知識と技術を高めながら協業し、馬と働く新しいモデルケースを作っていきたいです。

近藤良介さんの写真

kondo vineyard

近藤 良介さん

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